調査開始まではチラシ配りだったけれど、数日後から調査が入ると思うだけで、気分の違うものだった。
いつもはだるいな、と思う坂道すら、走って上がれるほど足取りも軽い。
探偵って、もしかしたらやりがいのある仕事になるかも?
調査初日。ぼくは調査開始地点に向かう。
対象者の自宅は、それなりに住宅の密集した地域にあった。
けれど、近くに流れる小さな川沿いの空き地に適当に車も止められる。
実は、チラシ配りの帰りに、事前調査は済んでいた。
初日から焦るのはいやなので。
対象者の出勤時間は、その日によってまちまち。一応、9時からの仕事と言っているのに、9時を過ぎて出勤するなんて、普通の事務員にはあり得ない。調査開始時間は8時半からだが、8時にはスタンバイ完了。
車を置いて、張り込みすることもできそうな環境だが、調査期間は5日間。
できるだけ人目につかないように、車を頭から敷地に止め、後ろのドア越しに対象者の家の玄関を見ていることにした。
ぼくが張り込む位置を決めたのが、8時10分。そこから少し離れた位置で少しの間、様子を見てから車に戻ったのが8時20分。
そして車の中で待機して10分ほどで対象者が家から出てきた。
対象者の来ていた服は、明るい色のカットソーにミニスカート。
スカートの裾は少しだけフレアーになっている。やけにかわいらしい格好だ。
事前情報によると30才を超えていたはずだが、その姿からはそんな年齢を感じさせない。
しかし・・・。これが普通の事務員か?
彼女が通り過ぎるのをバックミラーで確認してから、しばらく車の中で様子を見る。
相手は歩いての移動。
あまり早く動きだすと、それこそ不審者になってしまう。
適度な距離をとったことを確認し、彼女の歩いて行った方へ車をすすめる。
と、大通りに出た彼女はすぐさま待っていた白いセダンに乗り込んだ。
ぼくは焦った。
この距離では見失ってしまうかも!?
いきなりスピードアップ。
彼女の乗った車はあっという間にスタートしてしまう。
ぼくは車間を確認して一時停止なしで左折した。
間に車1台挟んだだけで済んだ。
けれど、もし赤信号で引っかかってしまったら、もう追いつけなくなってしまう
ハンドルを握ったぼくの手から嫌な汗が出てきて、ハンドルがいつもと違うもののように感じる。
ぼくの焦りとはうらはらに、白いセダンは直線を走って、信号2つ超えたところで、また左折。ぼくも左折するが、白いセダンはすぐそこのマンションへ入っていく。
ぼくがついていくと明らかにおかしくなるので、マンション前の駐車場に適当に車を止めた。 |