探偵会社への面接を申し込んだ、もうその日。
すぐに面接の電話がかかってきて、翌日、事務所を訪ねることになった。
ぼくは、ある程度、面接までの期間をもうけて、それからまとめて面接するものだと思っていたので、正直驚いた。
今思えば、本当に人手が足りていなかったんだろう。
そんなことを知らないぼくは、探偵という仕事のことは一切知らず、ただの興味と地元密着に魅かれてきてしまったことを隠しての志望動機を頭の中で考え、面接でどんな風に答えようか、シミュレーションを繰り返していた。
面接当日。
“経験者優遇”のあとに続く“未経験者も歓迎します”の文字を頼りに、面接に挑んだのだ。
はじめのうち、面接をしてくれた冴えないおじさんは、全くぼくに興味のないような感じだった。
普通の会社であれば、自分の役職や名前くらい名乗ってから面接をしてくれていたのに、小さい事務所だといきなり面接が始まるのもありなんだ、と、こちらも半ば呆れたような気分になっていたので、心のどこかで落としてくれ、という気持ちがあったことも否めない。
商社でどんな仕事をしていたのか?
顧客はどんなところが相手だったのか?
それで何を聞きたいのだろう?と、相手を探りながら慎重に答えていく。
ところが、話しが出張のことに触れたとき、おじさんの表情が少し動いたのだ。
へー、出張ってどこへ?
ぼくが名古屋と浜松によく行ったことを話すと、とたんおじさんの方のも話しに乗ってきたのだった。
名古屋城から東山動物園の辺り、名古屋から少し離れるが、一宮の方の話しまで出てきた。
名古屋にある美味しいお店の話しまで・・・。
もしかして、このおじさん、なごやに彼女がいるのか?と思えるくらい、デートスポットの話しをもちかけてくる。
ぼくは、面接にもかかわらず、おじさんに質問してみたい気持ちを必死で押さえ、なんとか質問に答えていたのだった。
というか、このおじさん、探偵事務所でどんな役割をしているのか、非常に気になるところだ・・・。
なんとなく、小学校の用務員のおじさんを想像してしまいそうなタイプなのだが・・・。 |