探偵おやじいわく、探偵という仕事がら、長い調査や、季節を問わず入ってくる尾行調査に耐えるだけの体力が最低限必要なのだとか。
その体力作りにもなるし、配ったチラシで調査が入れば、ぼくにとっても一番の勉強になるのだという。
このおやじ、マジで口がうまいんだ。
これにそのあとも悩まされることになるのだけれど・・・。
そう言われたぼくは、妙な納得感があり、喜び勇んでチラシ配りにでかけたのだ。
そして、あの地図は、そのチラシを配るための場所を指定するためのものだった。
大きな地図は、事務所を中心とし、市内と周辺地域が載っていて、よく見ると、小さく数字が書かれていたのだ。
“今日は○番”と指定された番号の地域を配ると、だいたい5000〜6000枚配れるようになっていた。
代表がまだ一人で事務所を切り盛りしていたころ、自分の足で宣伝したからこそわかる分け方。
だから、変に小さい区画と大きな区画があったんだ。
当然、配るのに楽なのは小さい区画。
住宅が密集していたり、マンションや団地が多かったり。
それに比べて、大きな区画はやたら田んぼや駐車場のひろいスーパーなんかがあって、1件入れたあと、次の家までが妙に遠かったりする。
最初は体力作りのため、と、走って配っていたのだけれど、なかなかこれもしんどいものがある。
ぼくは迷いに迷って、折りたたみの自転車を購入。
大きい区画は家同士が遠いけれど、駐禁の心配はほとんどない。
適当に土手近くのスペースに車を止めたり、たまにスーパーの駐車場に止めさせてもらったり。
そして、折りたたみの自転車でチラシを配る。
これが果たして体力作りになっているかどうかは定かではないが、目標枚数を配りきるためには仕方のないことだろう。
そうやって、最初のうちは、目標枚数を配ることと、早く調査が入ってほしいという期待から、チラシを配ることに夢中になっていた。
しかし、それも長くは続かない。
1ヶ月近く経って、チラシを配るだけで調査が入らなければ、仕事としてのおもしろ味に欠け、他の仕事がしてみたいという希望まで湧いてきてしまった。
ただ、後になって思ったのだけど、チラシを配っているうちは特に調査もないため、基本的に土日が休みになる。
そこのところは、久しぶりなツレに会ったりと有意義に過ごすことができたのではないか。 |